世の中で最も硬い宝石が、冷たい焔で光り輝く。
不動不朽のレコード。リヒテル自身が傑作と評しただけあって、幾つもの録音の中で快心の音楽となっている。
ゆるやかにピアノが語り出した旋律は、雄大な音楽になっていく。
ピアノとオーケストラの演奏している音楽を聴いているのではなくて、ドラマがその音の向こうに感じられる。これが感銘というものだな。フルトヴェングラーの『バイロイトの第九』を聴いて感銘したのに似て、クラシックの名曲だから、有名作曲家の名曲だから、名演奏家の録音だからというものとは違う、レコードの芸術作品です。
演奏
Piano – Svjatoslav Richter
Conductor – Stanislaw Wislocki (tracks: A1 to B1)
Orchestra – Sinfonie-Orchester Der Nationalen Philharmonie Warschau (tracks: A1 to B1)
曲目
2.Konzert Für Klavier Und Orchester C-Moll Op. 18 | |
A1 | Satz: Moderato |
A2 | Satz: Adagio Sostenuto |
B1 | Satz: Allegro Scherzando |
6 Préludes | |
B2 | Nr. 12 C-dur Op. 32 Nr. 1 |
B3 | Nr. 13 B-moll Op. 32 Nr. 2 |
B4 | Nr. 3 B-dur Op. 23 Nr. 2 |
B5 | Nr. 5 D-dur Op. 23 Nr. 4 |
B6 | Nr. 6 G-moll Op. 23 Nr. 5 |
B7 | Nr. 8 C-moll Op. 23 Nr. 7 |
世の中で最も硬い宝石が、冷たい焔で光り輝く。
録音されレコードが発売される時はセンセーショナルだったろう。そのニュース性だけでも売れたレコードだ。
録音は1959年。最新の録音と比べると冴えない音質、駿馬している演奏もあるだろう。オーケストラがピアノの響きを補う添え物にとどまっているのが残念。
ツィメルマンのピアノを大理石や水晶のようと喩えるならば、リヒテルのピアノは世の中で最も硬質なダイアモンド。その輝きは、暗く冷たい焔で燃えているような輝き。揺らぎのない常時同じ表情を見せる。
コロコロ、コロコロと珠の粒が鍵盤上を転がり奏でるといった不確かな響きでは無しに、リヒテルはこの曲に確固たるイメージを持っていた。そう感じて間違いないだろう。
ラフマニノフの音はまことに重厚であって、あのようなごつい音を持っているピアニストを私はかつて聴いたことがありません。重たくて、光沢があって、力強くて、鐘がなるみたいに、燻銀がかったような音で、それが鳴り響くのです。まったく理想的に男性的な音でした。それにもかかわらず、音楽はロマンティックな情緒に富んでいましたから、彼が自作を弾いているところは、イタリアのベルカントな歌手が纏綿たるカンタービレの旋律を歌っているような情調になりました。そのうえにあの剛直な和音が加わるのだから、旋律感、和声感ともにこれほど充実したものはないのです。
これはあらえびすがロンドンで、ラフマニノフ自身の演奏を何度も聞いた印象。ラフマニノフ自身の演奏のSPレコードを聞くと、言われるとおり。ラフマニノフの第2協奏曲は、快速でロマンティックな叙情性がある。ラフマニノフの指使いは彼だけの出来る技なのだから、これは真似できない。ラフマニノフの音楽を演奏する時は、それでいいんだと思う。
ラフマニノフの名曲を演奏した、名盤では無く。1959年の時代の有り様もひっくるめてのレコードの芸術。ロック、ポップスの名盤と比べるならば、ビートルズのアルバムととまでは行かないけど、マイケル・ジャクソンの「BAD」の位置に置ける。
評価
レコード、CDショップは在庫を欠かせてはいけない ★★★★★
レコード、CDで一度は聴いておきたい ★★★★★
演奏、録音は古く、一、二を競うものではない。より面白いと思う演奏に出会ったら手放して食いのないコレクション。個人的価値観は ★★★
リヒテルのラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ほか 独DGG 138 076
ポール・ムーアのフォトグラフ。Repress盤。
- —Sleeve info—
- Sticker attached to front cover: Grand Prix Du Disque – Paris
- Label: Deutsche Grammophon Gesellschaft